皆さんは「アルムナイ採用」をご存知でしょうか。
近年では東京都庁やサイボウズ、アクセンチュアなど大手企業も取り入れている採用手法です。
アルムナイ採用がなぜ注目されているのかメリット・デメリットに加えて、実例を交えながら解説いたします。採用に悩んでいる担当者さまの参考になれば幸いです。
目次
アルムナイ採用とは
アルムナイ採用の由来
「アルムナイ」という言葉は、英語で教育機関の卒業生を意味する「Alumni」に由来しています。そこから転じて、定年退職以外で退職した社員を指す際にも使われるようになりました。
つまり、企業を「卒業」した退職者を再雇用する手法がアルムナイ採用です。
アルムナイ採用によって再雇用された社員は、既に企業の業務内容や企業風土を理解しているため、即戦力としての活躍が期待できます。
リファラル採用との違い
よく似た採用手法としてリファラル採用※がありますが、アルムナイ採用はやや意味合いが異なります。
リファラル採用は自社社員や関係者が自らのネットワークなどを通じて人材の採用を推薦します。
アルムナイ採用でも在籍している社員からの推薦によって採用となるケースもありますが、リファラル採用は企業の退職者に限定せず採用を検討するという点で違いがあります。
また、似たような採用制度でカムバック採用(ジョブリターン制度)もあります。退職者を再度雇用するという意味合いではアルムナイ採用と同様です。しかし、カムバック採用は一般的に親の介護、結婚・出産・配偶者の転勤などやむを得ない事業で退職した人を対象とした採用手法を指します。
アルムナイ採用は自発的に退職を選んだ人材を再度雇用する採用手法なので、その点に違いがあります。
※リファラル採用について詳しく知りたい方はこちらの記事もおすすめです。
なぜアルムナイ採用が注目されているのか
アルムナイ採用が注目されている背景には、生産年齢人口の不足、雇用の流動化、人的資本経営の浸透の3つの要素があります。
生産年齢人口の不足
日本では少子高齢化が進行する中で、生産年齢人口が減少しています。総務省のデータによれば、生産年齢人口(15歳〜64歳)は1995年をピークに減少しており、2050年には5,275万人と、2021年から29.2%の減少が見込まれています。
生産年齢人口の減少に伴い、中途採用市場では人材の獲得競争が激化し、即戦力となる優秀な人材の採用が難しくなってきました。こうした状況を背景に、アルムナイ採用は中途採用における有効な解決策の一つとして注目されています。
雇用の流動化
現代の社会では、雇用の流動化が進んでいます。
日本では長らく、終身雇用制度(メンバーシップ型雇用※)に基づき、一つの会社で定年まで働くことが良しとされてきました。しかし、近年では若い世代を中心にキャリアの多様性を重視する考え方が広がり、転職が当たり前の時代になっています。
雇用の流動化は経済の活性化につながるという点で好ましい一方、人材採用にかかるコストの増加や、若手人材の教育と定着に時間がかかるといった課題も生じています。
このような背景の中で、即戦力の人材採用手法としてこのアルムナイ採用を採用チャネルとして活用しない手はありません。
※メンバーシップ型雇用について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご参照ください。
人的資本経営の浸透
近年、人的資本経営という考え方が広がりをみせており、企業における人材の価値が見直されています。
経済産業省によると、人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方と紹介されています。
この考え方はアルムナイ採用と親和性の高い考え方です。
また、同省は人的資本経営の考え方をどのように具体化し、実践に移していくかをまとめた人材版伊藤レポート2.0を2022年5月に公表しました。
この人材版伊藤レポート2.0の中で、アルムナイ人材は「自律的なキャリア意識を持つ人材」「目的意識が明確な人材」として取り上げられています。
アルムナイを自社の貴重な資産と捉え、アルムナイ採用に取り組む企業が増えています。
アルムナイ採用のメリット
企業がアルムナイ採用に取り組む三つのメリットを以下で紹介します。
即戦力になる
アルムナイ採用のメリット一つ目は、自社に適した即戦力人材を確保できることです。以前に勤めていた人材を雇用するため、企業文化や業務内容をある程度理解している状態なのですぐに戦力になります。
また、アルムナイは他社で新たなスキルや経験を積み、以前よりもキャリアアップしているため、さらなる活躍が期待できます。
エンゲージメントが高まる
アルムナイ採用のメリット二つ目は、エンゲージメントの高い社員を採用できることです。
アルムナイは他の職場で働いた経験を経て、再び自社で働くことを選んでいます。退職に至る理由があったとしても、それ以上の魅力を感じて戻ってくるため、エンゲージメントが高い状態で入社します。
さらに、既存の社員にとっても「退職者が再び戻りたいと思う会社」というイメージが形成されることで、企業全体のエンゲージメント向上につながります。
採用・教育コストを抑えられる
アルムナイ採用のメリット三つ目は、採用・教育コストを抑えられることです。
新規採用の場合、求人広告の掲載費や人材紹介手数料など、採用に関わるさまざまな金銭的コストが発生します。
アルムナイ採用は自社社員からの推薦や、自身からの申し出で採用が決まるケースが多く、求人媒体や転職エージェントを利用する新規採用に比べて、金銭的コストを抑えられます。
また、アルムナイは業務内容や企業風土について一定の理解が備わっており、ゼロから教える必要がないため新規採用の社員に比べて教育コストも低く抑えられます。
アルムナイ採用のデメリット
アルムナイ採用を取り入れる中で、メリットの他に解決しなければならない課題もあります。
退職者が増える可能性がある
アルムナイ採用を制度として設けることで、在籍社員の退職が増えることも考えられます。
アルムナイ採用制度が存在することで、「退職してもいつでも復職できる」という認識が社内に広まると、退職のハードルが下がり、安易に退職する社員が増えてしまう恐れがあります。
このリスクを防ぐためには、再雇用に関する方針やルールを明確に定め、それを社内外に周知徹底することが重要です。再雇用の条件やプロセスを明確にして、適切な運用を図ることが求められます。
評価制度の整備が難しい
特に、年功序列型の賃金体系を採用している企業では、アルムナイ採用を導入する際には、人事評価制度の見直しが必要になる場合があります。
アルムナイ本人と既存社員の双方に不満が生じないよう、給与や役職の設定について慎重な検討が求められます。
アルムナイが外部で得た経験や新たに取得したスキルをどのように評価するのか、評価基準を明確にした上で適切な給与レンジを設定することが重要です。
公平で透明性のある評価制度が、アルムナイと既存社員のモチベーション維持につながります。
アルムナイ採用の実例
我々イーラボ!の運営会社であるグローバルビジネスソリューション株式会社(以下、GBS)でもアルムナイ採用を実際に取り入れています。実際にアルムナイ採用で入社した2名の事例をご紹介いたします。
事例1
弊社のバックオフィスで働いていた社員の事例です。
個人の都合により別のシステム系の会社に転職をしましたが、退職後定期的に連絡を取り合い、自社主催のイベントに参加してもらうなど良好な関係を継続していました。
本人の退職から2年ほど経ち、自社の内勤体制を見直すタイミングが訪れた際に、再雇用の打診をしたところアルムナイとして戻ってきました。
本人の目指すキャリアと会社で達成したいビジョンをしっかりとすり合わせ、現在では人事担当として活躍しています。
事例2
創業期から営業として働いていた社員の事例です。
退職後は別のIT企業に支社長という立場で働いており、転職した後も転職先の会社と自社間で協業体制を構築しビジネスパートナーとして良好な関係を継続してきました。
既存社員とも定期的に交流する機会を設けながら、本人の希望によりアルムナイ採用で再入社し、現在も営業担当として活躍しています。
弊社の事例から考えると、アルムナイ採用を実現するにはアルムナイと定期的な交流を重ねて関係を維持し続けることが重要なポイントになります。
退職時にSNSやチャットツール等を用いてコミュニティを作成し、退職後に相談しやすい環境を整えることで、退職者と良好な関係の維持につなげられます。
おわりに
いかがでしたでしょうか。本記事では、近年注目されているアルムナイ採用について、その背景やメリット・デメリット、さらにアルムナイ採用の事例を交えながらご紹介しました。
終身雇用制度が崩壊し、転職が一般的になりつつある現在、アルムナイ採用は企業活動を持続させるために欠かせない人事施策の一つと言えるでしょう。
アルムナイ採用を成功させるためには、企業として社員に愛着や魅力を持たせ続けることが重要です。良好な企業風土を築き、働きがいのある組織を社員と共に構築していく姿勢が、これからの時代には一層求められます。
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